3月7日 Food inc.を紹介します。 [新自由主義]

 ドキュメンタリー映画 Food inc.に見るアメリカ食品産業の恐怖

 2008年製作のアメリカのドキュメンタリー映画、Food inc.を紹介します。食品産業とでも訳すのでしょうか? 今、わが国では安倍政権により、TPP交渉参加の動きが本格化していますが、この映画を見て、それが如何に危険な選択であるかを思い知らされました。食品は人間にとって基本的なものであり、何よりも安全なものでなければならないものと、誰もが考えるでしょう。しかし、この映画でアメリカの食品産業の酷さを見て、私は本当に恐ろしくなったのです。
 この映画は、アメリカの食品メジャー(穀物、食肉、バイオ)がどういう行動をとっているか、それがアメリカの農家や消費者にどのような影響を及ぼしているかがテーマです。

1. 工業化された食品産業、食肉メーカーの問題
 驚くのはアメリカの食品産業が、大規模に工業化されていることです。この工業化の引き金になったのは、マクドナルドでした。そのハンバーガーに象徴されるファースト・フード店の展開とその成功でした。マクドナルド兄弟は30年代にレストランの工業化に目をつけ、それを推進したのでした。問題は供給側です。マクドナルドに納入するため、均質な牛肉、チキン、レタス、トマトなど大量に、迅速に生産する需要が生まれたのでした。食品産業はそれに対応していきます。
 食品産業は寡占化とシェアの拡大が進み、最終製品を作る少数の大企業が、下請けの生産者を支配するようになります。例えば鶏肉は分業が発達しており、卵の生産者、孵化業者、肥育業者、そして最終加工を行なう大企業となります。悲惨なのは肥育業者です。タイソン社等の大企業は鶏舎や他の設備の規格化を肥育業者に要求し、業者は仕事を貰うためにはその設備を導入しなければなりません。そのためのローンを組まなくてはならないのです。借金が膨らみます。映画の取材に応じた業者の女性は、そうしたシステムを告発しながら、これ以上続けていけないと経営をやめることになります。そうした境遇だからこそ取材に応じたのでしょう。しかしそれまでの借金はどうなるのか、転職先はあるのか不安を残します。
 業者に輪をかけて悲惨なのは当の鶏です。抗生物質入りの飼料を与えられ、それは急速な成長を可能にします。雛から成鳥までの期間が7週間と短く、放し飼いの鶏の倍も肉を付けます。急激に体重を増加させられるため、立ち上がることも難しく脚を折ってしまいます。そして広い鶏舎ではありますが、足の踏み場もないほど鶏が大量に入れられているのです。病死した鶏を先の女性は手作業で運び出しますが、とにかく不潔で、鶏にとっても過酷な環境でしょう。
 夜、そうして太らされた鶏を、最終加工工場に運ぶため回収に来ますが、トラックに積み込むのは貧しい移民たちです。病気で動けなくなった鶏もお構いなく、足で蹴飛ばしながら積み込んでいきます。
 次に豚です。機械で絞められるのです。数頭もまとめて押し込められた部屋の、大きな鋼鉄の扉が下に降りていき?? 悲鳴が聞こえます。その解体も労働者にとっては過酷で、雑菌の多い内臓を取り除くため、爪が剥がれてしますと言います。
 牛、これもすごい。広大な土地に数万頭、数十万頭?の牛が集められています。餌はコーン。日本で牛はこれとは比べられない牛舎で飼われ、飼い葉を与えられ、排泄物は毎日丁寧に除去されているのを見ることがあります。しかしアメリカではお構いなし、牛は自分の排泄物の海に佇んでいるのです。BSEなどが蔓延しやすい環境に見えます。実際、映画でも感染した牛、それも足が折れ曲がり容易に歩けない牛をブルドーザーで強引に押し出そうとする場面がありました。
 又、研究者が指摘していますが、本来、牛の餌は牧草です。それに適応した胃を持っています。ところがコーンを与えられるため、胃の中で大腸菌が変異し、O157が発生しやすいと言います。たびたび全米各地で大量の牛肉が回収されるというニュース映像が挿入されます。
 排泄物まみれのまま牛は堵殺されます。解体作業は体力のいる手作業で、労働者はメキシコからの不法移民、NAFTA(北米自由貿易協定)で、安いアメリカ産に駆逐され、職を失った元トウモロコシ農民です。その数150万人以上、今度は低賃金で働かされ、時には不法移民という事で逮捕、投獄されるのです。それも明日の生産に支障がないような人数におさえられます。企業と警察が結託しているのです。
 こうして作られた牛肉のハンバーガーを食べた幼児がO157に感染して死亡します。元共和党員の母親はこうした悲劇を無くそうと子供の名前をつけた「ケビン法」、食料の安全基準を定める法案を通そうと民主党の議員に相談するなど奔走しています。又、貧困家庭の親子は安いハンバーガー以外、高くて買えません。カロリー過多の食事で初老の父親は糖尿病になり、高い薬を飲んでいます。ドライバーの仕事も目を悪くして何時失う事になるか不安に思っています。こうした貧困層の子供たちの中に糖尿病が広がりつつあると言います。(3月7日ここまで)

2.モンサント社 遺伝子組み換え大豆と除草剤
 モンサント社はご存知の方も多いことでしょう。ベトナム戦争で大量に散布された枯葉剤やDDTのメーカーです。以前、沖縄に枯葉剤が埋められているのではないかとのニュースを受けて、このブログでも紹介したことがあります。
 モンサント社は、大豆農家に一年契約で除草剤と、それに耐性のある遺伝子組み換え種子を売り込みます。本来大豆農家はシーズン終了後、次年度のために種子をとっておき、それを種子の洗浄業者に洗ってもらって使ったものなのですが、モンサントの種子は一年後との更新のため、種子を保存してはいけないのです。それが見つかれば特許権の侵害として告発されます。
 また、近隣の未契約農家に花粉が飛び、その農家から組替大豆が見つかると、同じく特許権を侵害したと難癖をつけ、金にあかせて裁判に持ち込むのです。否定するためには被告農家が証明しなければならないという不合理があり、結局示談にしなければなりません。種子の洗浄業者も扇動をしたとして告発されます。途中まで戦うのですが、裁判費用が続かず断念しなくてはなりません。モンサント社は農家の監視のために数十人の監視員を雇っており、多くが元軍人や警察官だと言います。こうしてモンサントは、未契約農民を駆逐し、契約農家を増やしているのです。
 遺伝子組替食品については勉強しなければなりませんが、害虫を自ら殺してしまう農作物など食べる気がしません。安全かどうかの研究に消費者が使われている、と言ってもいいかも知れません。

3.多国籍大企業が労働者、生産者、消費者を食い物にする、政府も加担
 食品産業の工業化は、安い食品を大量に作り出しています。しかし、みて来たように、その安全性については疑問を通り越して問題だらけと言わざるをえません。雑菌の混入、O157の発生、BSEの蔓延、一箇所の大量に家畜を集めれば、そうした危険も増大するでしょう。その安さも実は、コーン価格の相場に左右されたり、生産・輸送にかかるガソリンや灯油に依存していること、雑菌の混入でたびたび大量に製品が廃棄されること、排泄物の環境への放出、人間への病気感染で医療費がかさむなど、社会的コストも含めると決して安いものではありません。この点、原発とそっくりです。
 そうした見かけの安さを持つ食品を大量に生産するシステムを維持するために、衛生には注意を払わず、安い移民労働者を使い、下請け業者を支配し、消費者にはものを言わせない、法制度も企業に有利なようにしてしまうのです。まことに大企業の力は強力です。
 オプラ・ウィンフリーという人をご存知でしょうか? TV司会者としてアメリカでは大変有名な人です。その彼女が番組で「不衛生なハンバーガーなど食べられない」と言ったばかりに「風評被害法」で企業に訴えられる記録映像がありました。彼女は100万ドルかけて闘い抜き、勝訴します。裁判を闘うには巨額の資金が必要で、オプラのような人しかそもそも裁判を闘えないでしょう。
 そうした食品産業の元ロビイストがFDA(アメリカ食品医薬品局)の長官になり、食品の検査件数が激減したと映画は告発しています。政府中枢にも食品産業の息のかかった人物や、出身者が入り込み、政府自身が食品生産システムの維持に関わっていることも告発されています。
 食品表示の問題も紹介されています。カリフォルニア州でクローン牛の食品表示をさせようという法案が議会の公聴会で審議されるのですが、企業側の代理人の言い分が物凄い。「消費者の教育が終わるまで、表示を認めるわけにはいかない」と言うのです。こんなことを平気で言える神経が分からない、消費者の選択の自由を認めないと言っているのですから。にも関わらず法案は議会で可決されます。ところが、かのシュワルツェネッガー知事が拒否権を発動しつぶしてしまうのです。

 映画は主な食品企業には取材を申し込むのですが、1社を除いて応じていません。取材拒否のたびに、その旨テロップが流れます。おそらくこうした申し入れをしていないと、この映画に対してさえ訴訟が起こされるのかも知れません。取材に応じた企業は食肉メーカーでした。本社で全てのアメリカ国内の工場をネットで管理・運営しています。経営者は既にシェアが80%と言い、数年後にはライバルを駆逐して100%にすると豪語します。取材に応じたのは雑菌を殺すためにアンモニアを用いているからでしょう。複雑に設計された工場内を撮影させながら、私は技術者だと言うのですが、そうであるなら食肉に手をつけるべきでないと私は思います。

4.期待を持たせる二人の経営者
 二人の経営者が登場します。一人は牧場を営み、牛は昔ながらの放牧場で放し飼いにしています。鶏や豚もそこらを自由にうろつきまわっています。まだ若い彼は言います。「この牛を見てくれ、全てが循環しているんだ、牛の糞で草が育ち、それを牛が食べて育って行く。人間が手を加える必要はない。自然で持続可能、これが本当の食物になるんだ。」
 鶏をさばく場面でも言います。「露天でも作業は衛生上良くないと、農務省の役人が言ってきた。調べてみたら雑菌の数は他よりも圧倒的に少なかった。他は塩素を使っているのにである。このやり方に誇りと自信を持っている。ウォルマートに大量に卸して儲けることを考え始めたら、人間や動物に対する見方が180度変わってしまう、儲けの対象としかみなくなり、侮蔑の目で見るようになる。」と言います。
 もう一人は、有機で牛を育てている酪農家と契約し、乳製品を作る企業の経営者です。とりわけヨーグルトは自社工場で大量生産しており、販売額でも上位に位置するまでになっています。自然志向の高まりで、そうした声に押され、ウォルマートも仕入れざるを得ません。仲間からは、ウォルマートに卸すことに反対する意見もあると言いますが、それが彼の戦略なのです。(3月8日ここまで)

 このドキュメンタリー、本当に前途は暗い感じがして滅入ってきます。大企業は自分の利益の最大化だけを目的にし、濃く門の安全、下請け業者の苦悩など気にかけません。ただ救いなのは、自然に依拠した農業、酪農に挑戦している人々がいることでしょうか? 先の若い個人経営の食肉業者の話は、とてもしっかりした哲学を持っていると思いましたし、この映画に明るさと希望を与えています。

5.TPPに参加すると!
 先日このブログでも紹介した、ニューヨークの非営利のTV局、Democracy NowのTPPを取り上げた番組ですが、そこでも言っていました。TPPは貿易に関する協定ではなく、多国籍企業の世界統治を目指すものだと。その評価に私も賛成です。非関税障壁の撤廃やISDS条項をみれば一目瞭然です。要するに日本の国内市場をアメリカ基準で、いやそれ以上に多国籍企業と投資家有利に再編しようという協定だと言えるでしょう。牛肉について言えば、基本関税率が50%です。加えてつい先日、BSE対策で実施されてきた、月齢20ケ月以上から30ヶ月以上に緩和されています。20ヶ月以上が僅か生産牛の10%に過ぎないことを考えれば、この措置はTPPの先触れでしょう。さらに関税が撤廃されれば、先の不潔な牛肉が輸入され、おそらく原産地表示は障壁として表示されない可能性さえあります。
 こうした大量に生産され、安い価格で入ってくる牛肉に、国産牛に勝ち目がないことは明らかでしょう。日本の食糧自給率は現在40%弱ですが、農林水産省の試算によるとTPPに加われば13%まで下落すると言われています。特に自給率200%といわれている北海道は壊滅的な打撃を受けるでしょう。今世界的に食料生産が減少していると言われているとき、自給率の低下は国の主権にとっても問題です。貿易収支が2年連続で赤字の現在、金を持っていれば何でも買えるとは言えなくなりました。増してアメリカの生産が思わしくなくなったら、金があっても買えないのです。
 米について、この映画では取り上げられていません。しかし、米の関税は700%超と聞きます。これを破られたら日本の主権はなくなると言って良いでしょう。

6.資本論に関連して
 マルクスは資本論の中で言っています。「商品が貨幣に転化する(つまり売れること)のは命がけの飛躍なのだ」と。どんなに手間隙かけて製品を作っても売れなければゼロ、製品製造に投下した資本を回収できなければ、企業は再生産できず剰余価値を得ることが出来ません。だから資本は必死にならざるを得ないのです。有り余るほど大量に農畜産物を作る大企業は、それを何がなんでも売ろうとする強い衝動があるのです。
 イギリスにおけるかつての穀物法の廃止(関税の撤廃)のように、安い食料の国内供給は相対的剰余価値の獲得を可能にします。自国の農民の反対を押しつぶしても、当時の英国工業はそれを押し通したのでした。
 又、第八章第三節、労働日では、法規制のかかっていない産業の例があげられています。当時のパン製造業において「信じられないほどのパンの不純混和」が行なわれていました。その注74で、それは「粉末にするか、塩を混ぜた明礬」だと述べ「パン屋の材料という意味ありげな商品」として売られていたと言います。マルクスの時代から資本家は、製品を如何に安くするかに腐心しており、今日ではもっと巧妙に、もっと大規模に行なわれています。
 TPPはアメリカにとって安いもの(実は社会的コストは大)を大量に売りつけるための如何わしい方策と言わなければなりません。

7.最後に
 この映画はTPPに関する映画ではありません。しかし、アメリカの穀物メジャー、食肉メジャーが自国でやっていることは、見て来たように非常に危険です。TPP問題を考える際に是非考慮しなければなりません。
 TPPは多岐に亘る論点があり、一筋縄ではいきませんが、今後とも私が学んだことを発信していきたいと思います。

(3月17日終了)


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