9月7日 映画「アレクサンドリア」 [映画]

今、9月7日午後7時です。本当は、記事を書く余裕は無いはずなのです。というのも相方孝行で、明日早朝、八ヶ岳に行くはずだったので、本来ならその準備をしているはずなのです。が、天候が思わしくなく、相方は中止したいと言ってきました。登山は多少の雨でも現地に行くことが大切と、私は考えています。天候不順の予報でも(大それた天候で無い限り)行ってみたらそこそこの天気だったりします。山は意外な表情を見せてくれるし、そうした思い出の方が強く残るものなのです。
 ですが、相方は戦意喪失、これでは諦めざるを得ません。10月後半か、11月初旬に谷川岳あたりに行こうと約束して、今回は見送ることにしました。

 そこでしばらく前から書いていた、映画「アレクサンドリア」の評を書くことにしました。

映画 アレクサンドリア(原題AGORA)

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 WOWOWから録画しておいた、映画「アレクダンドリア」を見ました。2009年のスペインの映画です。昨年見たフランス映画「コンサート」もそうでしたが、見るまではどんな映画か全くわかりませんでした。ですがとても良い映画でした。今回は、あらすじではなく、言わば骨子ということで書いてみようと思います。

主人公と舞台
 紀元4世紀、ローマ帝国の一角、今のエジプトのナイル河河口にある都市、アレクサンドリアが舞台です。その時代の知識の宝庫、アレクサンドリア図書館の館長テオンの娘、ヒュパティアの物語です。彼女は天文学を教える教師であり、弟子達に敬愛される美しい女性でした。騒乱の際にも、彼女は宗教の別なく、弟子達を守ろうとします。
 そしてヒュパティアは公認のプトレマイオスの天動説に疑問を感じ、埋もれていたアリスタルコスの地動説を研究するのでした。

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 時代背景とヒュパティア
 ローマ帝国においてのキリスト教の勃興期です。多神教のような古代の宗教、ユダヤ教との対立が激化する時期です。ローマ皇帝みずからキリスト教徒になり、それ以外の宗教が弾圧・迫害を受けます。その教えとヒュパティアの精神が対立を深め、ヒュパティアは死に追いやられます。その前にアレクサンドリア図書館は破壊されます。

 二人の男性の思い
 ヒュパティアに思いをよせる二人の男性の苦悩が描かれます。一人は奴隷のダオス、もう一人はヒュパティアの教え子のオレステス、共にキリスト教に改宗します。ダオスはその身分から、思いを表わすことは出来ず、オレステスは公式の場で愛を告白しますが、ヒュパティアの研究に没頭したいと言う意志の前に、思いを遂げる事が出来ません。そして二人とも自身の信仰と、ヒュパティアへの愛の間で、板ばさみになります。

ヒュパティアの死
 肝心なところでネタバレです。ヒュパティアの死の場面、キリスト教強硬派になっていた奴隷のダオスは、投石による拷問のような死を与えるにしのびず、ヒュパティアの口と鼻を塞ぎ、窒息死させるのです。ヒュパティアも覚悟を決めていたのでした。

 見終わって、とても感動したので、映画の公式サイトを見て、ビックリ!! ヒュパティアは実在の人物だったのです。 Wikipediaを見てみると、生没年、紀元370年~415年、新プラトン派の哲学者で数学者、天文学者だったとありました。その死については、投石ではなく、カキの貝殻で肉を骨から削ぎ落とされる、という残虐なものだったそうです。
 またアレクサンドリア図書館はテオンをもって最後の館長とし、その知の殿堂としての歴史を閉じます。ヒュパティアの虐殺によって、自由な研究態度が奪われたのでした。

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後世の画家が描いたヒュパティア


 キリスト教は、布教の初めにはローマ帝国では禁止されており、他の宗教が多数、認められていたといいます。ところがローマ皇帝自身がキリスト教徒になると、それまでの宗教が禁止され、キリスト教のみ公認されました。
 映画を見ると、キリスト教は奴隷や貧民の間で広まったようです。ヒュパティアの、おそらく貴族としての言動が、ダオスを傷つける場面があって、一瞬画面が緊張します。時代表現の一つでしょう。この時代の階級構成を知らないので、機会があれば調べてみたいものです。また当然、ローマ皇帝には帝国支配の思惑が働いていたことでしょう。

 数学の世界で名の知られた、ディオファントスの「算術」は13巻の内、6巻しか残っていないとされています。ヒュパティアもこれに加筆しているそうです。おそらく映画に描かれている、図書館破壊の際に失われたのでしょうか? それでも近世になってヨーロッパの偉大な数学者達によって研究され、近世数学の隆盛を生みました。

 この映画評をブログで書いている方が多いのですが、映画以前にヒュパティアに興味を持って記事にしている方もいらっしゃいました。そんなに有名な人だったのですね。調べてみたら、J.D.バナールの「歴史における科学」にも簡単な記述がありました。
曰く「邪悪な学問から神聖な無知へのアウグスティヌスとアンプロシウスの行なった転身は、最後のギリシャ数学者の一人ヒパティアを石責めにした僧侶の率いる暴徒と同じ運動の一環であった」と。

 Wikipediaによると、天体観測のための観測儀や液体比重計を発明したそうです。ずば抜けて頭の良い人だったのですね。 時々考えるのですが、望遠鏡も無い時代、裸眼で毎夜、星を見つめて、その動きを観測する、翌日の夜、又目指す星を同定して観測を継続するとは、並の熱心さでないな、と思うのです。
 科学ジャーナリスト、イギリスのサイモン・シンと言う人が「ビッグ・バン宇宙論」という大衆向けの、わかりやすい本を書いています。それを読むと、天動説を主張する当時の天文学者も、観測を旨としていました。キリスト教が、それを「神のご意志」として権威付けたのでしょう。後にガリレオ・ガリレイが1000年以上立っても迫害にあったことは、よく知られた話です。ローマ教皇庁がその誤りを認めたのは、さらに350年後の1965年のことでした。

 さて映画に戻ります。

登場人物と俳優
 ヒュパティア(実在の人物)  :レイチェル・ワイズ
   イギリス出身の女優、1970年生まれ、2000年の「スターリングラード」で初めて知りまし
   た。ほんとに知的で美しい女優さんですね。
   ヒュパティアの次の言葉が残っています。
   「考える貴方の権利を保有して下さい。なぜなら、まったく考えないことよりは、誤ったこと
   も考えていさえすればそれで良いのです」
   「真実として迷信を教えることは、とても恐ろしいことです」
 テオン(実在の人物)    :マイケル・ロンズデール
   懐かしい俳優です。「ジャッカルの日」のルベル警視です。無口で実務家肌に見えて、
   大胆な行動をする警視役がはまっていました。フランス出身、1931年生まれの81歳! 
   テオンは、自身が賛成したキリスト教徒に対する制裁を加える争いの中で、重傷を
   負い、死に至ります。
 オレステス(実在の人物)  :オスカー・アイザック
   1980年、グアテマラで生まれ、アメリカで育った、新進気鋭の俳優、「ロビン・フッド」では
   傲慢で嫌味たっぷりのジョン王を演じていました。あまりに今回の役柄と違うので、確かめ
   てみるまで同一俳優とはわかりませんでした。今後が楽しみな俳優です。
   オレステスはアレクサンドリアの長官になりますが、総主教、キュリロスの「女は男に従うべ
   し、これが神のご意志だ。皆聖書の前にひざまづけ」という指示に、最後まで抵抗します。
   しかし、シュネシオスの説得の前に、泣きながら屈してしまうのです。
 ダオス(架空の人物)    :マックス・ミンゲラ
   姓を見て一発で素性の分かる若手俳優、亡くなったアンソニー・ミンゲラ監督(イングリッ
   シュ・ペイシェント)の息子さんです。1985年生まれ、イギリスの俳優です。母親が香港
   出身とのこと、親しみの持てる顔立ちをしています。役柄として一番難しい役だと思いま
   すが、立派に演じています。
   奴隷としてヒュパティアの世話をすると共に、講義では助手を勤め、周転円(Wikiないし、
   前記「ビッグ・バン宇宙論」参照の事)を模した模型を作り、ヒュパティアに褒められます。
   一方で奴隷を卑下するヒュパティアの言葉に傷つきます。

他にもアレクサンドリアの総主教になるキュリロス、別の都市で主教になるシュネシオス等、脇役でありながら、重要な役柄があります。この登場人物も、全てWikiに掲載される、実在の人物でした。

 これらの俳優の皆さんには、アレクサンドリアのような良い映画に出つづけて欲しいと、切に願います。間違ってもレイフ・ファインズのような名優が、ヴォルデモート郷なる人物(?)を演ずるような真似をしてほしくないですね。ハリー・ポッターファンの皆さんご免なさい。
 

 

 


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コトタマ学

すみません、言霊百神というサイトを紹介させて頂きます。
by コトタマ学 (2014-02-03 02:01) 

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